2024.04.15 更新
第175回 BOSS
 物流の大変革と言われる「2024年問題」。そこに働く人々の環境は、企業はどうなるのか?まず大阪のあの万博はどうなるのか?輸送、現場労働が法令に沿っていたら開幕には絶対間に合わない。でも間に合わせる、万博協会はどんな奇策を打ってくるかなどなど、余計な事を考えつつ、中島みゆきの「ヘッドライトテールライト」のCM世界を見ていて、あのTVCM特集に出くわした。

 缶コーヒーBOSS、働く人をテーマに16年間、何と81作。
関西の我々の下でのTVCMオンエアーは10作に満たない記憶があるが、こんな数作られていたとは驚きだが、驚きは数よりその中身の凄さ。一作一作に唸る。
 民放とNHKの違いの一番は「営業」部門の有無=収入源が自力か地力か。民放の営業マンは言う「どんな良い番組作るのも金(収入)ないと無理。NNKの様に国から金が出る殿様商売とは180度違う。
前々職の広告会社時、地元放送局のなじみの営業社員の毎度出てくる愚痴だった。だからこの放送局の年末忘年会は、制作と営業部門は、「金がないから良い番組作れない×無くても作れる」と、いつも取っ組み合い直前の喧嘩ばかりしていたのを思い出す。ましてCMはその代名詞。金がないと絶対良いCMは作れない。

 BOSS CMは、わずか15秒のCMに毎回毎ごと出演者が変わる超々贅沢な作り。当代の人気者で、ギャラが高騰している俳優をよくも簡単に使う、プロディースの腕には舌を巻く。
それも、わずか100円超の缶コーヒーのCMに…。既成概念がひっくり返される。
 長寿TVCMで言えば、白い犬のソフトバンクだが、ここは同一キャスト。しかし、BOSSのこれは宇宙人・ジョーンズだけ。多彩なテーマ、働く現場、働き方であらゆるタレント、俳優陣。それもトップの。大滝秀治、北大路欣也、加山雄三、山崎努、役所広司、大杉連、タモリ、武田鉄矢…。ついにはタモリの「笑っていいとも」など、各々の持ち番組にも入って行く。BGMも「3丁目の夕日」、「木枯し紋次郎」、「地上の星」、その中島みゆきも登場してくる。この発想には参る。わずか15秒のCMに。正確に言えば13.5秒のわずか1カット、秒数にして1~2秒の一言か二言のセリフのみ。よくもこれだけの俳優を…。
どれだけ金をつぎ込むか?…。働く現場も、この国で考えられるあらゆる業種職種、あらゆる作業着…、ついには相撲の行司、戦国武将のエキストラ…。ハリウッドスターのトミー・リー・ジョーンズのあの渋い無骨な表情で「この星の住人は」で始まり、日本人の古い労働観、人生観を若干皮肉くり、優しさもコーヒーの様に取り混ぜ、ホロリと泣かせ、最後は日本人の風習に共感しつつ、見事に落とす手法には唸る。だからどんな日本人もこのCMに身を乗り出すし、出演の俳優の「このCMから声かかるのを待っていた」との複数のコメントがある。
すでにCMと言うより、映像の世界、それもたった15秒だがその「働き方」の真髄を突いているから現実以上にリアリティー。

 大阪万博を強引に進める偉い方々は、宇宙人・ジューンズがつぶやく「働き方」はわかろうとはしないだろう。わかったら中止するしかないから。
「ムービー軌跡」
千代野基金

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